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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
 それに禍津霊達が依り憑き、人々に災禍を及ぼしているのではないか。自らを傷付けた者達に、抱いた怨みを晴らそうと……その心を昏(くら)い淀に浸してしまったのではないか。
(俺は……すくい取ってやれなかったのか)
 荒れ狂う暴風の中、日嗣は最後に視線を交わした時のように台の上から神依を見下ろす。
「……神依……」
 しかし──しかしそこに在ったのは自身の暗い思いに反し、ただひたすらに悲しく、ただひたすらに幼いだけの光景だった。
 ……日嗣が見た、少女の周りの空気は凪……。
 神依は淡島の中でたった一人、何かに護られているかのように周りの一切を通さず、無いものとして──ただ立ち尽くし、うつむいたまま泣いていた。
 子供のように両手で目を拭い、細い声で。
 そしてその後ろで、カタカタと音を立てて鳴る玉の緒。
 いつの間にか、そこにあった包みはそれ自体を苗床として、白い可愛らしい花を付けた藻草が群れる花束のようになっていた。
 毎日神依が水の中から細やかに摘み、この広場で捧げていたものだった。
 そしてその苗床は涙のように黒い粘液を滴らせ、僅かな理性でもって断片的に、あの女郎蜘蛛と同じように日嗣に意思を送ってくる。
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