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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
 水霊の御霊は既にその花に依せられた祈りを知り、心穏やかに優しい少女を待っていた。その少女を救い、誠実に振る舞ってくれた天の神を待っていた。そして少女の近くで穏やかな水の神となることを願っていた。新たな神として、また優しい祈りを依せられるのが嬉しかった。
 しかしその魂に届いたのは、心をつんざく……悲鳴のような鈴の音だった。
 少女は汚されてしまった。一度目は自らの手で肉の器を。二度目は他人の手で心の器を。
 それを知った魂は刹那の内に荒ぶり千年の時を越え、蛟を龍に変えた。
 「く……ッ」
理性を失い、荒ぶり祟る龍神に、日嗣もまた己の力が及ばないことを悟り、焦りと不甲斐なさに歯を噛む。
 “──龍は神にも人にも属さぬもの。蛟と侮り、千年後に大蛇と成ってはわらわも敵わぬ”
 それはもはや、高天原の神々にさえどうすることもできないもの。神の外(ほか)にも神は在り、神の上にも神は在るのだ。
 殺すは易い。しかし──。
(……何故俺は、剣のようにしか振る舞えぬのか)
それをどうにかできる者があるとしたら──
(──神依……)
怒る雷鳴、泣く悲風。
「神依……神依!!」
その轟音が耳に響く中、日嗣は今度こそ……ただ一人の少女を求めて、声を張り上げた。
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