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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
いつか思ったことが目の前で表されて、また神依の心が押し潰されるように痛んだ。
 ……きっと、一目惚れだったのだと思う。
 その花の名を冠した女神は、その花のように……青々とした山に点と誇る桜雲のように艶やかで、薄絹を折り重ねた花弁の如くたおやかで──さりとて易々とは雨風に散らぬ凛々しさをも備えており、その天より降った男神に媚び、しなを作ることも無かった。
 本当に、美しい女神。
 ……だから、その美しい男神と女神は、きっと本当は、二人とも一目惚れだったのだと思う。
 そして男神は、その女神を求める。
『……私はお前と、契りを結びたい。ただ……お前と』
 聞き慣れた声が紡ぐ他者への愛情の言葉は和(やわ)く、しかし神依には剣のようだった。そして形無き刃が流させるものは血ではなく、涙しかない。
 水面の瞳には、恋に染む若き男女は一層瑞々しく煌めいて映り、その分だけ自分がよりみすぼらしく思えた。
 (……やっぱり、私は……)
いらない存在。そしてここでは、その存在すら認めてもらえない存在。
 小さな心はますますに萎縮して、神依の意識を昏いどろどろとした根底の方へと誘っていく。
 ……日嗣はすぐに女神の父に遣いを送り、娘を所望する旨を伝えた。
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