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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
 巫女は流れる空気さえも共に躍らせ、衣に、五色布にその僅かな風を孕ませては、美しい流線を描いていた。またそれが名も無き神々の魂を興し、巫女を囲むように水や葉や花や……その場に残るあらゆるものがその巫女の袖を追い、円を描き、羽振(はふ)る。
 乾も坤も、その厚く黒い雲を分かち、恵みの雨を報せる柔らかな雷の音だけを残し光をもたらす。八衢は光と影が滑る水面となり、きらきらと虹色に輝く水晶のような粒の雨露を浮かべた。
 お天気雨だった。
 水で成った龍もその背を沈め、芥のように浮いていた黒い粘液を呑み込み元の水へとその姿を変えていく。
 「ひ……一ノ兄」
「ああ……」
そして地に残るわずかな者達は、その中に銀(しろがね)に輝く……水でできた、巨大な鱗を見た。
 やがて舞も終わりに近付くと、巫女はその所作をより一層ゆるやかなものに変える。
「……」
「……!」
その紅を塗られた唇は結ばれたまま、しかし薄れていく緋の瞳は日嗣にそれを訴える。
 ……笛の音が止み、巫女の持つ鈴の音が最後の流水の音を奏でる。
「──神依!!」
「孫──」
 その音と共に、弾かれたように自我を取り戻した日嗣は布に包まれた剣を取ると、その天つ御座を捨て宙に舞い、海へと崩れ行く巫女へと手を伸ばした。
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