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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第3章 世界の理
 それは不安にも似た感覚。所在無く、落ち着かない。どこか……別の世界を本当に知っているような、行けると信じているような、思い描いている時のような。覚めて忘れかけた夢を手繰り寄せるような感覚に似ている。
 けれど──今にして思えば日嗣も同じようなことを言っていた。

 ──己が外見だけで男に靡くような浅ましい愚か者でなかったことを
 ──育ての親に感謝するがいい。

 “育ての親”。
 それはつまり、“生みの親”が別に在るということではないのか──。
 それなのに、今の自分には個を形成する記憶が何もない。分からないこともたくさんある。猿彦が口にしたように、本当に赤子のような存在。
 だからといって、具体的に何か問うこともできない。日嗣を前にしたときもそうだった。何かを問おうとすると、別の何かにかき消されてしまう。ふわふわと、それこそ沫のように……意識がこことどこかをたゆたうのだ。
 まるでこの空にぽつりと一人取り残されたような気がして、それが怖くて少女は無意識に日嗣の衣を胸元で握っていた。
 自分は今、世界を見渡し──けれど自分自身のことは何一つとして知れない。それがこんなにも気持ちを不安定にさせるものだとは、思わなかった。
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