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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第3章 世界の理
 それは産声にしてはあまりに細く、哀しい──。
 洞主はそれを見ると、少女ではなく禊に向かって静かに告げた。
「奥社に着いたらすぐに湯浴みをさしておやり。その間に粥でも炊かせましょうかの」
「……はい」
禊は洞主の言葉を正しく理解して、頷く。そして、今度こそ足早に先を行く洞主の後に続く。
 今この少女の中には二つの世界が存在している。境界が揺らいでいる。早くこちらのものを食べさせ、血肉を変えなければならない。
 世界は本来異物を嫌うもの。
 混ざっているならば早々にどちらかに選り分け、或いは傾け、隠さなければならない。
 でなければ、やがて世界は牙を剥いて襲ってくる。
 それは水蛭子が辿り着く異界かて同じ。水蛭子がどこかに流れ着き、成長し、また再び戻ってくることはそれこそ──神に愛された奇跡なのだ。
 ましてや、彼女は再びこの淡島に戻り神手づから救われている。それもよりによって……あの神に。
 そして少女は、まるで恋衣のようにその衿元を頑なに離そうとはしない。
 だが──それでも自分は、その二重三重の奇跡を護らなければならない。彼女の心も体も、害されることがあってはならない。
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