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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第3章 世界の理
【2】

 その白く煙る空間は、出で湯(いでゆ)と檜の香りが混ざり森の香りがしていた。横にも広いが縦にも広い。湯気を逃がすための天井近くの格子窓からは、夕間近の色褪せた青い空と流れ込む透明の空気が見えた。
 「お一人でお座りになれますか?」
「ん……運んでくれてありがとう、重いのに」
「重いとは一言も申し上げておりません。申し訳ありませんが、少々このままお待ちになっていて下さい。私も一度、湯殿衣に着替えさせて頂きますので。一ノ弟」
「ん。こっちは俺がやっとく」
禊は少女を広い洗い場の中心に据えると、その場を離れ少年だけを残していった。
 (そういえば禊の服まで汚しちゃった……大丈夫かな)
日嗣によって生まれたての獣と称された少女は、あの蛇に擦り付けられた粘液の残滓を今も体から滴らせており、禊の衣もそれを吸ってしまっていた。
 少女は少しの不安と共に禊を見送り、羽織の衿を胸元に寄せる。その間にも、少年は風呂場や脱衣場まであちこちを駆け巡り手際よく桶や石鹸、手拭いを揃えていった。
 それをこっそり目で追いながら周りを見れば、広い浴場には床よりわずかに高い幾つもの木の浴槽。それが細い水路で繋がり、その湯気の色を薄くしている。
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