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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第3章 世界の理
「いい匂い──お米が綺麗」
「熱いのでお気をつけて。こちらから、塩、醤(ひしお)、味噌、海苔、梅肉となっておりますので、どれでもお好きなものを」
「ありがとう! ……いただきます」
 禊は小さな木の椀に盛り直し、匙と共に手渡す。少女は丁寧に手を合わせたあと、ひとまず全部試してみようと端にあった塩を摘まみ粥にかけた。そしてふうふうと息を吹き掛けて、一口。
「……」
それを見て、禊はひとまず肩の力を抜く。
(……これでやっと、彼女も淡島の人間たりえる)
 水蛭子の多くは、人間の住まう国──“豊葦原”(とよあしはら)より流れ着く。
 そしてその豊葦原から高天原まで、この国元に生きる者が必ず口に含む原初の食物──米、塩、水。今少女が匙ですくうそれら全てがこの淡島で作られ、採られたもの。
 淡島と豊葦原という異界が混ざっていた少女だったが、これでようやく世界が傾く。血肉がこちらのものに変わるにはまだ時が要るだろうが──少女がそれを口に運ぶ度に、意識せずとも魂の方が変わっていく。
 禊がそんなことを考えている中、緩やかに粥を食んでいた少女はそれを飲み込むと安心しきったように笑った。
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