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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第4章 底にあるもの
 そして小走りにそちらに向かう少女の背を見ながら、禊は目につかないよう忍ばせてあるあの桜色の香のことを思い出していた。
 (もう……そろそろ、頃合いか……)
あれから少女は、まるで無かったもののように仮世のことを口にすることもなくなった。代わりにこちらの世界を知りたがり……特に、その道理や神々にも、驚きより興味を示すようになってきた。やはり多少変わったところはあるが、もういい頃だろう。
 「姉ちゃん、外暑かったろ。瓜冷やしてあるぜ」
「えっ、本当? どこどこ?」
「あ、ちょっ! 俺が行くから──」
「一ノ弟」
そのまま厨(くりや)に駆けていく少女を引き留めようとする童を、更に禊が呼び止める。
「夕までに少し仮眠を取っておけ」
「一ノ兄──今夜やるの?」
「ああ。形式上、と洞主様も仰っていたが一応な」
「ん、分かった」
 童はそれで全て承知して、尚更急いで少女の後を追う。
 瓜を切るのに、彼女に包丁を持たせるのもいまいち頼りない。要領がいいともいえないのに、やらなくてもいいことを進んでやろうとする。それが嫌な訳ではなかったし、いずれ必要があれば学ぶ機会もあろうが、今は怪我でもされたらとそちらの方が禊と童に取っては一大事だった。
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