この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第4章 底にあるもの
室内には香の甘い匂いと、湯殿で使った石鹸の香りを含んだ女の香(か)がこもっていた。そして時折、男の芯を震わせるような、吐息混じりの嬌声が耳をくすぐってくる。
それでも毒のように感じないのは、まだその部屋の主が女として成熟しきっていないからだろう。
香炉を見れば、線香はもう尽きかけようとしていた。
と、その時──
“──…日嗣様……っ!!”
「……!」
微かに聞こえた少女の声に、禊は香炉に伸ばしかけた手をびくりと止める。
「…………」
今まで耳にしたことのない少女の艶声に求められた、一人の男神。
神を乞い……慕うのは紛れもなく巫女としての業だが、ただそれでも、心の奥底より形容し難い感情が滲み出すのを禊は感じていた。昼も夜も──求められたのは自分ではない。
蚊帳の方に目を遣れば、少女は闇に埋もれるように寝具に隠れ、その身を小さく震わせていた。
心は無垢なまま、神の味を覚えさせられてしまった器と魂は、これからどこへ向かうのだろう。
いつもいつも──禊が大切に思うものは、全て神々に奪われていく。けれども逆らえない。抗えもせず、人としても生きられず、ただ傀儡のように動き待つだけ。百年でも二百年でも。
それでも毒のように感じないのは、まだその部屋の主が女として成熟しきっていないからだろう。
香炉を見れば、線香はもう尽きかけようとしていた。
と、その時──
“──…日嗣様……っ!!”
「……!」
微かに聞こえた少女の声に、禊は香炉に伸ばしかけた手をびくりと止める。
「…………」
今まで耳にしたことのない少女の艶声に求められた、一人の男神。
神を乞い……慕うのは紛れもなく巫女としての業だが、ただそれでも、心の奥底より形容し難い感情が滲み出すのを禊は感じていた。昼も夜も──求められたのは自分ではない。
蚊帳の方に目を遣れば、少女は闇に埋もれるように寝具に隠れ、その身を小さく震わせていた。
心は無垢なまま、神の味を覚えさせられてしまった器と魂は、これからどこへ向かうのだろう。
いつもいつも──禊が大切に思うものは、全て神々に奪われていく。けれども逆らえない。抗えもせず、人としても生きられず、ただ傀儡のように動き待つだけ。百年でも二百年でも。