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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
縣の仕事を手伝うようになって、光は驚いた。
フランス語の読み書きが苦手と言っていたが、縣が書いた文書はどれも正確で長年フランスで教育を受けてきた光と比べても全く遜色はなかった。
光は縣が添削を頼んできた書類を手にして、書斎を訪れた。
「悔しいけれど完璧よ。…私を雇う必要はあるのかしら?」
縣は広いマホガニーの書斎机の前で、いつもの品の良い笑みを浮かべる。
「それは良かった。私は留学経験もないし、フランス語は大学で齧った程度でね。あとは働き出してから実地で学んだから、自信がなかったんだ。…君がチェックしてくれたら心強い」
…なんだか調子が狂うわ。
光はバツが悪そうに両手を上げた。
「その契約書のチェックが終わったら君はもう休んでいいよ。お茶でも飲んで寛ぎたまえ。アンヌに言っておこう」
「…そんな…。まだ何時間も仕事をしてないわ。…それに貴方は?」
「私は日本の炭鉱の方の試案書に目を通さなくてはならない」
光は眉を顰めた。
「働き過ぎよ。…昨日も遅くまで貴方の部屋から灯りがもれていたわ。ちゃんと寝ているの?
…お茶は貴方の分もお願いするわ。…でなければ私も休まない」
やれやれと言うように縣は眉を上げる。
「君は意外に口うるさいんだな。…もっと淡白な人かと思っていた。…と言うより…もしかして私のことを心配してくれているの?」
揶揄うように縣が尋ねる。
光は綺麗な唇を歪めて笑う。
「まさか!私が貴方に借金したまま、貴方に万が一のことがあったら目覚めが悪いだけよ。自惚れないで」
「…まあそうだろうな。…分かったよ、それではお茶にしよう」
降参の仕草をした縣に、光が不意に大きく目を見開き、笑いかけた。
「いいことを思いついたわ!アンヌに話してくるわね。ちょっと待っていて」
突然の光の行動にやや面食らう。
光は風のように書斎を出ていった。
「…やれやれ。光さんが来てから退屈する暇がないな」
縣は独りごちて小さく笑った。
フランス語の読み書きが苦手と言っていたが、縣が書いた文書はどれも正確で長年フランスで教育を受けてきた光と比べても全く遜色はなかった。
光は縣が添削を頼んできた書類を手にして、書斎を訪れた。
「悔しいけれど完璧よ。…私を雇う必要はあるのかしら?」
縣は広いマホガニーの書斎机の前で、いつもの品の良い笑みを浮かべる。
「それは良かった。私は留学経験もないし、フランス語は大学で齧った程度でね。あとは働き出してから実地で学んだから、自信がなかったんだ。…君がチェックしてくれたら心強い」
…なんだか調子が狂うわ。
光はバツが悪そうに両手を上げた。
「その契約書のチェックが終わったら君はもう休んでいいよ。お茶でも飲んで寛ぎたまえ。アンヌに言っておこう」
「…そんな…。まだ何時間も仕事をしてないわ。…それに貴方は?」
「私は日本の炭鉱の方の試案書に目を通さなくてはならない」
光は眉を顰めた。
「働き過ぎよ。…昨日も遅くまで貴方の部屋から灯りがもれていたわ。ちゃんと寝ているの?
…お茶は貴方の分もお願いするわ。…でなければ私も休まない」
やれやれと言うように縣は眉を上げる。
「君は意外に口うるさいんだな。…もっと淡白な人かと思っていた。…と言うより…もしかして私のことを心配してくれているの?」
揶揄うように縣が尋ねる。
光は綺麗な唇を歪めて笑う。
「まさか!私が貴方に借金したまま、貴方に万が一のことがあったら目覚めが悪いだけよ。自惚れないで」
「…まあそうだろうな。…分かったよ、それではお茶にしよう」
降参の仕草をした縣に、光が不意に大きく目を見開き、笑いかけた。
「いいことを思いついたわ!アンヌに話してくるわね。ちょっと待っていて」
突然の光の行動にやや面食らう。
光は風のように書斎を出ていった。
「…やれやれ。光さんが来てから退屈する暇がないな」
縣は独りごちて小さく笑った。