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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 ムーランルージュの夜
「…アガタ、何を考えているんだい?
…また梨央さんのこと?」
賑やかなレビューの音楽とダンサーの嬌声にはっと我にかえった縣をジュリアンはやや気遣わしげな眼差しで見つめていた。
「…ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしていた…」
笑いながら、シャンパンを飲み干す縣にジュリアンはその天使のように美しい顔に困った子供のような表情を浮かべる。
「…梨央さんはアガタのフィアンセだったんだもの…。僕より梨央さんが恋しいよね。…ごめんね」
「そんなことはないさ。もう全ては終わったことだ」
縣はジュリアンを安心させるように明るく答える。
…そう、全ては過去の話だ。
白薔薇の薫りがするお伽話の姫君のような美少女は永遠に私の手から離れてしまった…。
彼女は今は美しい姉と密やかに濃密に愛を育てている。
…それが寂しくないと言ったら嘘になるけれど…。
雰囲気を変えるように縣はシガレットに火を付ける。
「気にするな。私は梨央さんのことはとうの昔に諦めている」
「…本当に?」
疑うように上目遣いで縣を見るジュリアンが可笑しくて、吹き出す。
「本当さ。…梨央さんに未練があるわけじゃない…。
私が一番に望むことは梨央さんの幸せだ。彼女は今、最愛の人を得た。…心から良かったと思っているよ」
「…じゃあなんでそんなに寂しそうな顔をしているんだい?」
ジュリアンは怒ったような顔をした。
ジュリアンは喜怒哀楽が激しく屈託がない性格だが、親しくなった者の気持ちの機微にはとても敏感だ。
兄のように慕う縣が寂しげにしているのが心配で堪らないのだ。
「そうかな?」
「そうさ。アガタは大人だから表面を取り繕うのがうまい。いつも明るく振舞っているけれど、最近は心ここにあらずだ」
縣は苦笑いする。
「…君には敵わないな」
縣はシガレットを咥えながら、華やかな舞台に眼をやる。
セクシーな赤い衣装に身を包んだ美人の歌手がムードたっぷりに恋の歌を歌い上げる。
「…寂しいというか…胸にぽっかり穴が空いた気分なんだ。ずっと梨央さんを見守ってきたからね…。梨央さんが大人になり、花開くように美しく成長してゆくのを側で見つめてきた…10年以上だ…」
西洋の城の如き屋敷の奥深く隠されていた深窓の姫君…。
美しく気高い姫君の成長を見護る騎士の気持ちでいた。
だがもうその役目は私ではない。
高貴な白薔薇は二度と触れることはできないのだ。
…また梨央さんのこと?」
賑やかなレビューの音楽とダンサーの嬌声にはっと我にかえった縣をジュリアンはやや気遣わしげな眼差しで見つめていた。
「…ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしていた…」
笑いながら、シャンパンを飲み干す縣にジュリアンはその天使のように美しい顔に困った子供のような表情を浮かべる。
「…梨央さんはアガタのフィアンセだったんだもの…。僕より梨央さんが恋しいよね。…ごめんね」
「そんなことはないさ。もう全ては終わったことだ」
縣はジュリアンを安心させるように明るく答える。
…そう、全ては過去の話だ。
白薔薇の薫りがするお伽話の姫君のような美少女は永遠に私の手から離れてしまった…。
彼女は今は美しい姉と密やかに濃密に愛を育てている。
…それが寂しくないと言ったら嘘になるけれど…。
雰囲気を変えるように縣はシガレットに火を付ける。
「気にするな。私は梨央さんのことはとうの昔に諦めている」
「…本当に?」
疑うように上目遣いで縣を見るジュリアンが可笑しくて、吹き出す。
「本当さ。…梨央さんに未練があるわけじゃない…。
私が一番に望むことは梨央さんの幸せだ。彼女は今、最愛の人を得た。…心から良かったと思っているよ」
「…じゃあなんでそんなに寂しそうな顔をしているんだい?」
ジュリアンは怒ったような顔をした。
ジュリアンは喜怒哀楽が激しく屈託がない性格だが、親しくなった者の気持ちの機微にはとても敏感だ。
兄のように慕う縣が寂しげにしているのが心配で堪らないのだ。
「そうかな?」
「そうさ。アガタは大人だから表面を取り繕うのがうまい。いつも明るく振舞っているけれど、最近は心ここにあらずだ」
縣は苦笑いする。
「…君には敵わないな」
縣はシガレットを咥えながら、華やかな舞台に眼をやる。
セクシーな赤い衣装に身を包んだ美人の歌手がムードたっぷりに恋の歌を歌い上げる。
「…寂しいというか…胸にぽっかり穴が空いた気分なんだ。ずっと梨央さんを見守ってきたからね…。梨央さんが大人になり、花開くように美しく成長してゆくのを側で見つめてきた…10年以上だ…」
西洋の城の如き屋敷の奥深く隠されていた深窓の姫君…。
美しく気高い姫君の成長を見護る騎士の気持ちでいた。
だがもうその役目は私ではない。
高貴な白薔薇は二度と触れることはできないのだ。