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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
アンリエットは通された客間で緊張した面持ちで、勧められた椅子に腰掛けた。
栗色の髪はきちんと結い上げられ、翡翠の髪留めが飾られている。
濃い緑色のドレスは年頃の娘にしてはやや地味な色合いだが、ベルベットの上着から覗くレースや細かい装飾は見事なもので、アンリエットが裕福で品の良い貴族の令嬢だということを表していた。
小作りな顔は目鼻立ちが整っており、笑顔なら可愛らしく見えるはずの娘なのに、硬い表情のままのため、やや陰気な印象を与えてしまうような娘でもあった。

挨拶だけ済ませると、部屋を出ようとした縣をアンリエットは引き止めた。
「ムッシューアガタもいてください。…貴方にも関係があることですから…」
縣はヒカルと眼を合わせ、そのままアンリエットの向かい側…光の隣のソファに腰掛けた。

メイドが熱いショコラをテーブルに並べ、退出したのをしおにアンリエットが待ちかねたように口を開いた。
「昨日突然フロレアン先生が、私の家庭教師を辞めると仰ったのです」
光は驚き、目を見張った。
「フロレアンが⁈」
「私に落ち度があるのかと思いお尋ねしましたら、そうではないと。
…もう絵を描くのは辞めると…辞めてヒカルさんと結婚をしてニースのご実家のホテルで働くと仰いました」
縣は光を見た。
光はその美しい琥珀色の瞳を伏せ、痛ましいような表情をしていた。
「なぜ急にそのようなことをと重ねてお尋ねしましたら、ヒカルさんをムッシューアガタに取られそうで心配でならないからだと。絵の才能もないし、もう踏ん切りをつけてニースにヒカルさんと帰りたいのだと」
「フロレアンは誤解をしているわ。私はここにいる縣さんとは何でもないわ。それに…フロレアンには才能がある。彼は必ず一流の画家になれる人よ」
アンリエットはきらりと光を見つめた。
「それは私も確信しています。フロレアン先生には大変な才能があります。先生の描かれる絵は一流です。私は先生の絵が大好きです」
言い切るアンリエットの頬は紅潮し、その鳶色の瞳は輝いていた。
光は静かに尋ねる。
「…アンリエットさん、貴女…もしかして…フロレアンのことを…」
「…はい。…私はフロレアン先生が好きです。大好きです。フロレアン先生を思う気持ちは貴女には負けません」
アンリエットの瞳に強い光が宿っていた。
光は息を呑む。
縣はそっと気遣わしげに光を見つめた。



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