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第4章 エッフェル塔の恋人

侯爵はそんな娘に穏やかに声をかける。
「…光、私と一緒に日本に帰ろう…」
「…パパ…」
侯爵は胸ポケットから取り出したハンカチーフで光の涙を不器用に拭いてやる。
「…お母様はだいぶ落ち着いてきているそうだ。今すぐどうこうではないが、かなり気弱になっているらしい。…お前にとても会いたがっているそうだ」
「…お母様…」
侯爵は噛んで含めるように、諭す。
「お前も薄々分かってきているだろう。…お前は日本人だ。フランス人にはなれない。お前は日本で麻宮侯爵家を継ぐのだ。お前には麻宮侯爵家の後継者としての義務がある。それはお前が持って生まれた運命なのだ。…人は自分の運命には逆らえない。
お母様はお前を誰よりも頼りにしている。…一緒に日本に帰ってお母様を安心させてあげよう、光」
光は両手を真っ白になるまで強く握りしめた。
数分の沈黙ののち、色を失った唇を開いた。

「…分かったわ。お父様。…ただ、私に一日だけ時間をちょうだい。…そうしたら、お父様の言う通りにするから…」
光は力のない瞳で窓の外を見た。
…マロニエの葉が散り始めていた。