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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
短い眠りから覚めた縣は、すぐさま光の存在を確かめる。
裸の二人は抱きあったまま、眠ってしまったらしい。
縣の腕の中にはランプの淡い灯りに照らされ、静かに眠る光がいた。
縣は例えようもない幸福感に包まれ、思わず微笑んだ。
優しく光を抱き寄せる。
無意識に光も縣の胸に寄り添う。
艶やかな黒髪、アラバスターのように整った美しい横顔、華奢な肩は透き通るように白い。
情事の名残りでまだ桜色を帯びている光の綺麗な乳房を、縣は誰が見ている訳でもないのに、毛布で包み込むように大切に隠した。
光はすやすやと子供のように眠っている。
その無垢で無防備な姿が愛おしい。
縣は光の清らかな額に唇を落とす。

…女性と一夜を共にして、こんなにも満ち足りた思いで目覚めたのは初めてだ。
縣は情事の後、いつも後悔と倦怠に包まれていた。
釣り上げた魚はいつも色を失っていた。
どんな美女でもそうだった。

しかし…光は違った。
光との愛の交歓は愛しさしか感じず、しかも一方的に快楽を与えるつもりであったのに、結果は縣も同じくらい…いやもしかするとそれ以上の快楽を光によって与えられた。
それは光の底知れぬ優しさと慈愛からであった。
性交がこんなにも心まで震わせ、情感が昂まり、愛が深くなるものだとは縣はこれまで知らなかった。

…私は何も分かっていなかったのかもしれないな…。
縣は改めて光を広い胸に抱き寄せた。
…ずっと光さんを抱いて、光さんの美しい顔を見つめていたい。
…だが、縣は次第に光の温もりに引き込まれるように眠りの世界にいざなわれてゆく。

…一眠りして、朝起きたら…
縣は考える。
…二人で、ロッシュフォールの家に帰ろう。
明日はアンヌが休みの日で良かった。
二人の朝帰りを目の当たりにしたら、仰天したに違いない。
朝食は…
そうだ。光さんが気に入ってくれたポルチーニ茸のオムレツを作ろう。
それとルネの店でクロワッサンを買って…
あとは熱いカフェオレがあればいいだろう…。

…待てよ、朝食の前に私は何か大事なことを光さんに伝えなくてはならないはずだ…。
とても大事なこと…。
…ああ、もう睡魔が邪魔をして考えられない。
まあいい、明日だ。
…明日、起きて光さんの顔を見たら思い出すだろう。
明日…全ては明日から始まるのだから…。

縣は光を抱きしめたまま、甘い夢の世界に再び落ちていったのだった。



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