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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
昼過ぎにロッシュフォール家別邸に帰宅した縣を待ち構えていたのは、血相を変えたジュリアンだった。
「アガタ‼︎大変だよ‼︎ヒカルが日本に帰っちゃったよ!僕宛に手紙が置かれていて…アガタ?…朝帰りの上に飲んでいるのか?」
ジュリアンが眉を顰める。
「…ああ…私だってたまには飲みたくなる時があるさ」
物憂げにゆっくりと大階段を上がる。
「…アガタ?」
「光さんはお父上と日本に帰ったよ…。…光さんは在るべき場所に帰ったのさ」
「…アガタ…なにかあったの?いつものアガタじゃないよ」
ジュリアンが不審そうに呟く。
縣は長い廊下を歩き、光の部屋に入る。
…整然と片付けられた部屋。
クローゼットの扉は開かれていて、中には縣が誂えた服が全てそのまま並んでいた。
「…元々、光さんはずっと私の秘書なんかを続けている人ではない。名門侯爵家のご令嬢だからな」
部屋の中に立ち見渡す。
…部屋の主がいなくなっただけで、随分と余所余所しく感じられるものだな…。
「昨夜ヒカルと、何かあったんだね…?」
察しの良いジュリアンが気遣わしげに尋ねる。
「…ああ。…光さんと寝たよ」
「…アガタ!」
紳士らしからぬ言い方にジュリアンは聞き咎める。
「…そして振られた。…それだけの話さ」
「…アガタ…」
「…フフ…私はよほどあの一族の女性に縁がないらしい…」
自虐的に笑う縣にジュリアンは、怒ったように詰め寄る。
「なにカッコつけてんのさ!追いかけなよ、アガタ!ヒカルを!アガタはヒカルを好きなんだろう⁉︎」
縣は振り返らずに答えた。
「…好きだよ…。でも、光さんはまだフロレアンを愛している。フロレアンを突き放したことに罪悪感を感じながら…。彼女に私の気持ちを伝えて引き留めたところで、益々苦しめるだけだ」
ジュリアンはヅカヅカと縣の前に回り込み肩を掴む。
その華やかで美しい蒼い目に怒りを露わにしながら。
「だから何なのさ‼︎好きなら丸ごと引き受けろよ!ヒカルだってきっとそれを望んでいる!」
縣は寂しげに笑った。
「…私への気持ちは友情だと言われたよ。…だから…いいんだよ、これで…。光さんは日本に帰り辛い事は全て忘れて、新しい人生を生き直せば良いのだ…それが光さんの幸せだ…」
「…アガタ…」
窓の外には木枯らしが吹き始めていた。
鈍色の空を見上げ願う。
…光さんは今頃、船上の人だろうか…。
寒くないといいな…。


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