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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
「…本当に…急にこのお屋敷も寂しくなりましたわね…。ヒカル様が日本にお帰りになってからもう一カ月ですわ…」
アンヌが玄関ホールで縣に毛皮つきの黒い外套を着せかけながら少し寂しげに言った。
早くも12月の声を迎えていた。
縣は穏やかに笑う。
「…そうだな。寂しくなったな…」
「ヒカル様は今、どうされているのでしょうか」
アンヌは相当光が気に入っていたらしい。何かにつけて光の近況を知りたがっていた。
「ご病気の実家の母上の看病をされていたらしいが、だいぶ良くなられたとヒカルさんの従姉妹からお手紙が届いたよ。母上の容態も快復傾向にあるので、今は東京に戻られているらしい」
あんなに慌ただしくパリを発ったのは、光の母が倒れたからだと、梨央からの手紙で初めて知った縣だった。
フロレアンの画家としての将来と母の病気と、どちらも深刻な悩みを抱え、さぞや苦しかっただろうと縣はその手紙を読みながら胸が痛んだ。
そして…もし、それを知っていればもっと自分は光の力になれたのではないだろうかと悔やんだりもした。
…だが…
時すでに遅しだ。
「…母上も良くなられたし、東京で光さんはお元気にお過ごしだろう。良かったのだよ、お帰りになって」
…光さんはきっと、心機一転、新しい生活を始められているに違いない。
パリでのことは全て忘れて…。
…私のことも…
…あの夜のことも…
縣の胸はちくりと痛んだ。
その痛みを振り払うように、アンヌに明るく告げる。
「では行ってくる」
アンヌは深々と頭を下げる。
「行ってらっしゃいませ、大奥様にどうぞよろしくお伝えくださいませ」
「分かったよ」
今日はマダムロッシュフォールにアフタヌーンティーに招待されているのだ。
縣は手を挙げて笑ってみせた。
アンヌが玄関ホールで縣に毛皮つきの黒い外套を着せかけながら少し寂しげに言った。
早くも12月の声を迎えていた。
縣は穏やかに笑う。
「…そうだな。寂しくなったな…」
「ヒカル様は今、どうされているのでしょうか」
アンヌは相当光が気に入っていたらしい。何かにつけて光の近況を知りたがっていた。
「ご病気の実家の母上の看病をされていたらしいが、だいぶ良くなられたとヒカルさんの従姉妹からお手紙が届いたよ。母上の容態も快復傾向にあるので、今は東京に戻られているらしい」
あんなに慌ただしくパリを発ったのは、光の母が倒れたからだと、梨央からの手紙で初めて知った縣だった。
フロレアンの画家としての将来と母の病気と、どちらも深刻な悩みを抱え、さぞや苦しかっただろうと縣はその手紙を読みながら胸が痛んだ。
そして…もし、それを知っていればもっと自分は光の力になれたのではないだろうかと悔やんだりもした。
…だが…
時すでに遅しだ。
「…母上も良くなられたし、東京で光さんはお元気にお過ごしだろう。良かったのだよ、お帰りになって」
…光さんはきっと、心機一転、新しい生活を始められているに違いない。
パリでのことは全て忘れて…。
…私のことも…
…あの夜のことも…
縣の胸はちくりと痛んだ。
その痛みを振り払うように、アンヌに明るく告げる。
「では行ってくる」
アンヌは深々と頭を下げる。
「行ってらっしゃいませ、大奥様にどうぞよろしくお伝えくださいませ」
「分かったよ」
今日はマダムロッシュフォールにアフタヌーンティーに招待されているのだ。
縣は手を挙げて笑ってみせた。