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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
マダムロッシュフォールはふと、窓の外を見つめた。
寒々しい冬の空から白い花弁のようなものが舞い落ちるのが見えた。
…初雪だ。
神々しいまでの威厳に満ちた横顔が一瞬、寂しげな色を帯びる。
「…彼が密かに私の元を忍んでこられたのは婚約式の前日の夜のことでした。彼は旅支度をしていて…私の手を握り、こう言いました。
自分はこれからアメリカに渡り、新天地で生きてゆく。私にも一緒に来て欲しいと…自分と一緒にアメリカで暮らして欲しいと…。地位も名誉も家族も何もかも捨てて…自分と結婚して欲しいと…」
「…お祖母様は…?」
ジュリアンが恐る恐る聞く。
マダムロッシュフォールは、哀しげな微笑を浮かべ、ゆっくりと首を振った。
「…できなかったわ…。私は彼をとても愛していたけれど…何もかも捨てて彼について行きたかったけれど…私には貴族の家に生まれた娘として果たさなくてはならない責務があった。…私が婚約を破棄して駆け落ちしたら、どんなことになるか…。私の両親は二度と社交界に顔を出すことはできないでしょう。
私の実家もロッシュフォール家からの経済的援助は受けられなくなるわ…使用人達は路頭に迷うでしょう…それから、彼の実家の方々にもどんな厄災が及ぶかわからない…。
短い時間の間に18の私はそれらのことを全て考え、身を千切られるような思いで彼の申し出を断ったの…」
「…お祖母様…可哀想だ…」
ジュリアンはべそをかいた。
マダムロッシュフォールは優しく笑いながらジュリアンの鼻をかんでやる。
縣は静かに尋ねた。
「…その恋人の方は、なんと…?」
マダムロッシュフォールは静かに続ける。
「…彼は暫く私を見つめ、私の気持ちを全て汲み取ってくれたようだったわ。…そして私の手を取り、恭しく愛を込めてキスしてくれた。
…お元気で、マドモアゼルリーズ。…私は永遠に貴女を愛しています。…私が天国に召される瞬間まで…と。
…そして彼は部屋を出て行き、アメリカに渡った…。
…それからは一度も彼に会っていないわ…」
「…お祖母様…」
ジュリアンは子供のように啜り泣いている。
マダムロッシュフォールは愛しげにジュリアンを抱く。
「…ジュリアンは相変わらず泣き虫ね…そして優しい子…」
寒々しい冬の空から白い花弁のようなものが舞い落ちるのが見えた。
…初雪だ。
神々しいまでの威厳に満ちた横顔が一瞬、寂しげな色を帯びる。
「…彼が密かに私の元を忍んでこられたのは婚約式の前日の夜のことでした。彼は旅支度をしていて…私の手を握り、こう言いました。
自分はこれからアメリカに渡り、新天地で生きてゆく。私にも一緒に来て欲しいと…自分と一緒にアメリカで暮らして欲しいと…。地位も名誉も家族も何もかも捨てて…自分と結婚して欲しいと…」
「…お祖母様は…?」
ジュリアンが恐る恐る聞く。
マダムロッシュフォールは、哀しげな微笑を浮かべ、ゆっくりと首を振った。
「…できなかったわ…。私は彼をとても愛していたけれど…何もかも捨てて彼について行きたかったけれど…私には貴族の家に生まれた娘として果たさなくてはならない責務があった。…私が婚約を破棄して駆け落ちしたら、どんなことになるか…。私の両親は二度と社交界に顔を出すことはできないでしょう。
私の実家もロッシュフォール家からの経済的援助は受けられなくなるわ…使用人達は路頭に迷うでしょう…それから、彼の実家の方々にもどんな厄災が及ぶかわからない…。
短い時間の間に18の私はそれらのことを全て考え、身を千切られるような思いで彼の申し出を断ったの…」
「…お祖母様…可哀想だ…」
ジュリアンはべそをかいた。
マダムロッシュフォールは優しく笑いながらジュリアンの鼻をかんでやる。
縣は静かに尋ねた。
「…その恋人の方は、なんと…?」
マダムロッシュフォールは静かに続ける。
「…彼は暫く私を見つめ、私の気持ちを全て汲み取ってくれたようだったわ。…そして私の手を取り、恭しく愛を込めてキスしてくれた。
…お元気で、マドモアゼルリーズ。…私は永遠に貴女を愛しています。…私が天国に召される瞬間まで…と。
…そして彼は部屋を出て行き、アメリカに渡った…。
…それからは一度も彼に会っていないわ…」
「…お祖母様…」
ジュリアンは子供のように啜り泣いている。
マダムロッシュフォールは愛しげにジュリアンを抱く。
「…ジュリアンは相変わらず泣き虫ね…そして優しい子…」