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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
ジュリアンを愛しげに見つめながらマダムは言った。
「…亡くなったロッシュフォール公爵は優しく穏やかな方でした。…彼のようにハンサムではなかったけれども…貴族の殿方にしては珍しく愛人も作らずに、私を心から愛して大切にして下さったわ。息子も娘も生まれ、そして…」
ジュリアンを抱きしめる。
「こんなにも美しく優しい孫にも恵まれた…。
とても幸せな人生だったわ…間違いなく」
「お祖母様…!」
ジュリアンの髪を撫でながら、縣を見つめる。
「…けれど、ムッシューアガタ。…私は時々思うのですよ。…あの時、もしも彼の手を取っていたら…と。
もしも彼に付いてアメリカに行っていたら…と。私の人生は全く違ったものになっていたでしょう…。
…そう考える夜が幾夜もあるわ…」
「…マダムロッシュフォール…」
「…彼はアメリカに渡り、立派な医学博士となり様々な研究をして画期的な治療薬を開発されたそう。
…でも…ずっと独身なのだそうよ…」
マダムは少女のようなナイーブな顔をした。
ジュリアンがたまらずに叫ぶ。
「…会いに行かないの?お祖母様…。お祖父様も亡くなったんだし…会いに行くくらい、いいんじゃないの?」
マダムは穏やかに首を振る。
「…いいえ。私の想い出は美しいままで良いの…。彼の中では私は若くて可愛らしい18歳のマドモアゼルリーズのまま…。私の中でも彼は28歳のハンサムで若々しい青年医師のまま…。お互いの美しい想い出を永遠に胸に秘めていたいの…きっと彼も同じ思いよ…」
マダムは不意に真っ直ぐな眼差しを縣に向けた。
「…けれどムッシューアガタ、貴方はそれでいいのかしら?美しいヒカルさんの美しい想い出だけで幸せかしら?」
「…マダムロッシュフォール…!」
「…時間は魔法のように過ぎて行くわ。
…そしてそれを取り返す術はないの。
後悔しないで、ムッシューアガタ。…貴方の本当に愛する人は誰なのか…貴方は誰と生きて行きたいのか…よく考えて」
そしてふっと表情を和らげて、縣の手の甲を軽く叩いた。
「…年寄りの繰り言よ…。余計なお世話なら忘れてちょうだい」
縣は首を振る。
胸が詰まり言葉が出ない。
顔を上げると熱いものがこみ上げてきそうで、縣は俯いた。
「…いいえ、マダムロッシュフォール…いいえ…いいえ!…」
「…亡くなったロッシュフォール公爵は優しく穏やかな方でした。…彼のようにハンサムではなかったけれども…貴族の殿方にしては珍しく愛人も作らずに、私を心から愛して大切にして下さったわ。息子も娘も生まれ、そして…」
ジュリアンを抱きしめる。
「こんなにも美しく優しい孫にも恵まれた…。
とても幸せな人生だったわ…間違いなく」
「お祖母様…!」
ジュリアンの髪を撫でながら、縣を見つめる。
「…けれど、ムッシューアガタ。…私は時々思うのですよ。…あの時、もしも彼の手を取っていたら…と。
もしも彼に付いてアメリカに行っていたら…と。私の人生は全く違ったものになっていたでしょう…。
…そう考える夜が幾夜もあるわ…」
「…マダムロッシュフォール…」
「…彼はアメリカに渡り、立派な医学博士となり様々な研究をして画期的な治療薬を開発されたそう。
…でも…ずっと独身なのだそうよ…」
マダムは少女のようなナイーブな顔をした。
ジュリアンがたまらずに叫ぶ。
「…会いに行かないの?お祖母様…。お祖父様も亡くなったんだし…会いに行くくらい、いいんじゃないの?」
マダムは穏やかに首を振る。
「…いいえ。私の想い出は美しいままで良いの…。彼の中では私は若くて可愛らしい18歳のマドモアゼルリーズのまま…。私の中でも彼は28歳のハンサムで若々しい青年医師のまま…。お互いの美しい想い出を永遠に胸に秘めていたいの…きっと彼も同じ思いよ…」
マダムは不意に真っ直ぐな眼差しを縣に向けた。
「…けれどムッシューアガタ、貴方はそれでいいのかしら?美しいヒカルさんの美しい想い出だけで幸せかしら?」
「…マダムロッシュフォール…!」
「…時間は魔法のように過ぎて行くわ。
…そしてそれを取り返す術はないの。
後悔しないで、ムッシューアガタ。…貴方の本当に愛する人は誰なのか…貴方は誰と生きて行きたいのか…よく考えて」
そしてふっと表情を和らげて、縣の手の甲を軽く叩いた。
「…年寄りの繰り言よ…。余計なお世話なら忘れてちょうだい」
縣は首を振る。
胸が詰まり言葉が出ない。
顔を上げると熱いものがこみ上げてきそうで、縣は俯いた。
「…いいえ、マダムロッシュフォール…いいえ…いいえ!…」