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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
雪が降りしきるカレー港が少しずつ遠ざかる。
本来ならば色とりどりのたくさんの紙テープや賑やかな銅鑼の音、デッキには港で別れを惜しむ家族や友人らに、手を振る人々で溢れ返っている筈の甲板は殆ど人気がない。
行き交う人は皆、高身長の身体に濃紺の細身の制服を身につけ、制帽をきちんと被り、ピストルを携帯した上級将校ばかりだ。
東洋人で民間人の縣を好奇心に溢れた顔でちらりと見ながら通り過ぎる将校もいる。
縣は雪で白く霞む港の風景を目に焼き付けるように、デッキの手摺に腕をかけ見つめていた。
「君がムッシューアガタ…マダムロッシュフォールの友人か…」
アガタの背後から嗄れた…だがいかめしい声が聞こえた。
縣は素早く振り返る。
そして、声の主に背筋を正す。
「ダルタニアン元帥…!」
付近にいた将校達が一斉に直立不動で敬礼をする。
…ダルタニアン元帥と呼ばれた男は紺色に金モールが飾られた軍服に沢山の勲章を胸につけていた。
年の頃は70半ば…しかしその堂々たる体躯となにより猛禽類を思わす鋭い灰色の眼光は、初めて彼を見るものでも彼が只者ではないということをすぐに悟るであろうものであった。
ダルタニアン元帥は2名のお付きの武官を従え、まるで王のような威厳を辺りに漂わせながら存在していた。
ダルタニアン元帥はゆっくりと縣に近づき、その鋭い瞳で縣を見据えた。
縣は深々とお辞儀をする。
「縣礼也です。この度はマダムロッシュフォール並びにダルタニアン元帥に大変なご無理なお願いをいたしまして、申し訳ございません」
顔を上げた縣を尚もじっと見つめると、元帥はにやりと笑った。
それはどこか悪戯な少年のような笑いだった。
「マダムロッシュフォール…いや、マドモアゼルリーズのお願いなら聞かない訳にはいかぬからな。
…ほう…リーズは最近はオリエンタルな美男子が好みなのか。…しかし相変わらず面食いだな!」
そうして、さも可笑しそうに呵呵と笑った。
ジュリアンから連絡を受けたマダムロッシュフォールは迷わずダルタニアン元帥に電報を打った。
「私の大切な友人を極秘で貴方の軍艦に乗せてちょうだい。そして最短で日本に送り届けて」
「…私を電報一つで動かせるのは国王陛下とリーズだけだよ。ムッシューアガタ、君は良い友人を持ったな」
そう言うと、ダルタニアン元帥はユーモアたっぷりな目配せをして笑った。
本来ならば色とりどりのたくさんの紙テープや賑やかな銅鑼の音、デッキには港で別れを惜しむ家族や友人らに、手を振る人々で溢れ返っている筈の甲板は殆ど人気がない。
行き交う人は皆、高身長の身体に濃紺の細身の制服を身につけ、制帽をきちんと被り、ピストルを携帯した上級将校ばかりだ。
東洋人で民間人の縣を好奇心に溢れた顔でちらりと見ながら通り過ぎる将校もいる。
縣は雪で白く霞む港の風景を目に焼き付けるように、デッキの手摺に腕をかけ見つめていた。
「君がムッシューアガタ…マダムロッシュフォールの友人か…」
アガタの背後から嗄れた…だがいかめしい声が聞こえた。
縣は素早く振り返る。
そして、声の主に背筋を正す。
「ダルタニアン元帥…!」
付近にいた将校達が一斉に直立不動で敬礼をする。
…ダルタニアン元帥と呼ばれた男は紺色に金モールが飾られた軍服に沢山の勲章を胸につけていた。
年の頃は70半ば…しかしその堂々たる体躯となにより猛禽類を思わす鋭い灰色の眼光は、初めて彼を見るものでも彼が只者ではないということをすぐに悟るであろうものであった。
ダルタニアン元帥は2名のお付きの武官を従え、まるで王のような威厳を辺りに漂わせながら存在していた。
ダルタニアン元帥はゆっくりと縣に近づき、その鋭い瞳で縣を見据えた。
縣は深々とお辞儀をする。
「縣礼也です。この度はマダムロッシュフォール並びにダルタニアン元帥に大変なご無理なお願いをいたしまして、申し訳ございません」
顔を上げた縣を尚もじっと見つめると、元帥はにやりと笑った。
それはどこか悪戯な少年のような笑いだった。
「マダムロッシュフォール…いや、マドモアゼルリーズのお願いなら聞かない訳にはいかぬからな。
…ほう…リーズは最近はオリエンタルな美男子が好みなのか。…しかし相変わらず面食いだな!」
そうして、さも可笑しそうに呵呵と笑った。
ジュリアンから連絡を受けたマダムロッシュフォールは迷わずダルタニアン元帥に電報を打った。
「私の大切な友人を極秘で貴方の軍艦に乗せてちょうだい。そして最短で日本に送り届けて」
「…私を電報一つで動かせるのは国王陛下とリーズだけだよ。ムッシューアガタ、君は良い友人を持ったな」
そう言うと、ダルタニアン元帥はユーモアたっぷりな目配せをして笑った。