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それを、口にすれば
第10章 それぞれの想い
「ところで優雨とはどうなの? 調教は進んでる?」

理沙子は何事もなかったかのように身体を離し、ワインに口をつけた。

「……最近は慣れてきたようだ。初めは緊張していたが」

「ふうん……でも優雨って、自分が無さ過ぎてつまらない女よね」

優雨は確かに口数は少ない。
しかし優雨が賢く、そしてうちに熱いものを秘めた女性であることに、結城は気付いていた。
それに、とても優しい女性であることも……。

そんな優雨に結城は自分でも不思議に思うほどに惹かれていた。
先日初めて二人がひとつになった時には、もう何年も忘れていた愛の言葉を思わず口にしてしまう程に。

「いや、とても芯の強いところがある女性だよ。ご両親を早くに亡くしてかなり苦労もしたんだろう」

――だが、それは理沙子の好む回答ではなかったようだ。

「そうよねえ……私は家のことやお金のことで苦労したことがないから我慢ができない女だものねえ」

「……おいおい」

「そうだ、ねえ、また貸出し調教しない?」

虚を突かれたような顔をする結城を見て、理沙子は唇についたワインをペロリと舐めた。

「それかほら、いつかの夫婦みたいに公衆便所にしてやりましょうよ。楽しかったわよねえ。キャンプ場のトイレに縛り付けて……。良介もいい感じの犬に仕上がってきているから悦ぶと思うわ」

犬……。
予想できたことだが、理沙子はやはり良介を調教しているのだ。

優雨には理解できないだろうし、もし知ったら衝撃を受けるのだろうと思うが……だからと言ってどうすることもできない。
そもそもこの世界を理沙子に教えたのは結城なのだ。
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