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それを、口にすれば
第11章 求め合う心
地下の駐車場に下りると、濃紺の高級車のエンジンが静かに音を立て、その運転席には結城の姿が見えた。
どうやら結城の車で、結城の運転で行くらしい。

良介と優雨の姿を見ると、結城が運転席から出て、優雨の手にある二つのボストンバッグを受け取り、トランクに入れてくれる。

そして「助手席にどうぞ」という結城の言葉に、優雨の胸は小さく鳴った。

駐車場に停まっている結城の車はもちろん知っていたが、乗るのは初めてだ。

まるで初めてデートをする少女のようにドキドキしてしまう自分がおかしくて、そんな自分に頬を赤らめる優雨を……結城はまるで『心配ないよ』とでも言うように微笑みながら見つめてくれていた。

(結城さんといれば、おかしなことなんて起きる筈がないわ……)

そう自分に言い聞かせ助手席側に向かう。
そしてドアを開けると……。

一足先に後部座席に乗っていた良介と、理沙子が抱き合ってキスをしていた。

「あっ……」

一瞬ギョッとして、小さな声を漏らしてしまう。
しかし、理沙子はそんな優雨を横目で見るだけで、更に口付けを深くした。
良介の様子はよく分からない……。

結城と自分がそうであるように、良介と理沙子も深い仲なのだからキスなんて当たり前のことなのだ……。

胸の痛みなどはもう無かったが、こういう光景に慣れることなど自分にはとても出来そうもない……そう思いながら、優雨は目を逸らして革張りのシートに沈み込んだ。
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