この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
それを、口にすれば
第11章 求め合う心
「二部屋って言ってもねえ、家が二つっていう感じなのよ。棟が分かれているの。長い廊下を渡ってね……離れは特に、少しぐらい悲鳴を上げたって隣には聞こえないんじゃないかしら」
「悲鳴って……り、理沙子さん、やっぱり飯なんかも旨いのかな」
「当たり前じゃない。旬の……今だったら浅利もいいわねえ。あとまだ牡蠣も……ああ、良介は嫌いなんだっけ? でも今日は残したら承知しないわよ」
……二人の話を聞いていて、優雨は驚いたことがいくつかあった。
ひとつは、しばらく見ないうちに理沙子と良介の間に上下関係がはっきりと出来ていることだ。
家では威張り散らす良介だったが、理沙子にはまるで頭が上がらないらしい……。
そして、良介の会社のパーティーと今回の旅行の日程が被っていることを、理沙子が当たり前の様に知っているのも驚きだった。
「やだあ良介、結局優雨に電話させたの?」
「えっ……優雨が、勝手に……」
「ばーか、そんな訳ないじゃない。そうそう、あの宿はねえ、政財界のお偉いさんや芸能人なんかもお忍びで来るのよ。社員旅行じゃ食べられないご馳走ばかりよ?」
偶然なのか、それとも事前に知っていて旅行の日程をこの日にしたのだろうか。
良介はと言えば、理沙子の話に合いの手を入れながらヘラヘラと笑っていて……もしわざとこの日にしたのなら、理沙子も、それを受け入れる良介も、やはりどうかしていると優雨は思った。
でもそんな思いも、隣に座って運転している結城の横顔を見ると喜びの感情に消されていく。
結城の車で、初めての旅行。
嬉しくて、心がときめいてしまうのが抑えられない。
せっかくだから楽しもうと思う自分と、そんな風に割り切れる自分もやはりおかしいのではないか……という思いが優雨の中で揺れていた。
「悲鳴って……り、理沙子さん、やっぱり飯なんかも旨いのかな」
「当たり前じゃない。旬の……今だったら浅利もいいわねえ。あとまだ牡蠣も……ああ、良介は嫌いなんだっけ? でも今日は残したら承知しないわよ」
……二人の話を聞いていて、優雨は驚いたことがいくつかあった。
ひとつは、しばらく見ないうちに理沙子と良介の間に上下関係がはっきりと出来ていることだ。
家では威張り散らす良介だったが、理沙子にはまるで頭が上がらないらしい……。
そして、良介の会社のパーティーと今回の旅行の日程が被っていることを、理沙子が当たり前の様に知っているのも驚きだった。
「やだあ良介、結局優雨に電話させたの?」
「えっ……優雨が、勝手に……」
「ばーか、そんな訳ないじゃない。そうそう、あの宿はねえ、政財界のお偉いさんや芸能人なんかもお忍びで来るのよ。社員旅行じゃ食べられないご馳走ばかりよ?」
偶然なのか、それとも事前に知っていて旅行の日程をこの日にしたのだろうか。
良介はと言えば、理沙子の話に合いの手を入れながらヘラヘラと笑っていて……もしわざとこの日にしたのなら、理沙子も、それを受け入れる良介も、やはりどうかしていると優雨は思った。
でもそんな思いも、隣に座って運転している結城の横顔を見ると喜びの感情に消されていく。
結城の車で、初めての旅行。
嬉しくて、心がときめいてしまうのが抑えられない。
せっかくだから楽しもうと思う自分と、そんな風に割り切れる自分もやはりおかしいのではないか……という思いが優雨の中で揺れていた。