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それを、口にすれば
第11章 求め合う心
「わあ、すごい……」
宿を一目見た優雨は思わず感嘆の声を上げていた。
それはまるで、旅館と言うよりは森の中にある由緒ある神社の様だった。
霧にけむる山の中、木造の古風な門構えの建物が静かに佇んでいる。
そして建物自体は木立にところどころ遮られてはいるが、趣のある純和風の渡り廊下が奥の方までいくつも続いているのが見える。
「一棟一棟がしっかり独立していてね、しかもそれぞれに広い露天風呂があるんだ」
と、結城が耳元で囁く。
主屋に入ると、そこはフロント……と言っても落ち着いた雰囲気の座敷があり、そこで結城がチェックインを済ますのを皆で待った。
そして「芸能人のサインとか無えのかなあ」などと落ち着きなく辺りを見回していた良介も、手続きの後は理沙子に引っ張られるように廊下の先に消え、優雨が思っていたよりも早く二人とは別行動になった。
ここからは結城と二人でゆったりと週末を過ごすことが出来るのだろう。
やはり、自分は心配しすぎだったのだ……。
それぞれの棟へは長い渡り廊下が続いている。
まるで神社の拝殿に渡るような木の香りのする外廊下を、優雨は中居の後について結城と二人で歩いた。
庭はよく手入れされているが、木々が生い茂っている部分も多い。
これでは一度チェックインしてしまえば他の客と顔を合わせることはほぼ無いであろう。
手入れの行き届いた庭木が上手にプライバシーを守るのだ。
この後、結城と二人きりになれたら……話したいことが山ほどある気がする。
それは、口数の多くない自分が今まで経験したことのない様な気持ちだった。
出逢ってからまだ数ヶ月だというのに、一週間に一度会うだけでは何かが足りないと思う程、結城の存在は大きなものとなっているのだ。
それは身体も心も感じている、切実な想いで……。
自分がこんな風に誰かを愛するようになるなんて、少し前までは想像もつかなかったと優雨は思った。