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それを、口にすれば
第11章 求め合う心
前を歩く着物姿の中居は年配の女性で、とても穏やかな笑みを浮かべているが……会話などは殆どせず、宿の景色に溶け込んでしまいそうなほど存在感が無かった。

大昔に良介と行ったことのある旅館の中居さんは大きな声で忙しそうに立ちまわっていたのを思い出し、優雨は少し微笑んだ。

そしてそんな優雨の手をそっと握る結城と目を合わせると、まるでもう二人きりになっているかのように感じるのだった。

辿り着いた部屋のドアに当たる部分は、日本家屋の玄関のようだったが、その中に中居も一緒に入るのかと思えば、そこで彼女は挨拶をし下がって行く。

お茶の用意などは要らないと、チェックインの際に結城が話していたのを優雨は思い出した。

襖を開けると、正面の大きな窓からも見事な日本庭園が見える。
その景色の眩しさに、優雨は立ったまま目を細めた。

そんな優雨を結城が後ろから抱きしめてくれるのを感じる……そしてどちらからともなく向き合うと、二人は長いキスをした。

唇を吸う様な優しく、少しだけ激しいキスに結城の愛情を感じる。
優雨は背中に手を回し、結城の引き締まった背中を強く抱きしめていた。

「やっと二人きりになれたという顔をしているね」

「はい……だって、嬉しくて」

こういう時の結城は本当に穏やかで、溶けてしまいそうなぐらい優しい。
……しかしセックスの時は女性を辱めることを楽しむのだ。

優雨はもうすでに、どちらの結城のことも深く愛していた。
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