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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
「でも、優雨の手作り料理は別よ! 美味しくって本当にびっくりだったわ。旦那も大絶賛よ」

そう、二人が喜んでくれるから、頑張りがいがあるのだ。
献立をあれこれ工夫するのも、優雨は毎週楽しみで仕方がなかった。

夫の良介は優雨の手料理に感想を言ってくれることなど無く、新しいものに挑戦しても、粗を探して嫌味を言ったりすることの方が多い。
初めは様々な工夫をして頑張っていた優雨も、次第に嫌気がさして良介の好物だと分かっているものばかり作るようになっていた。

週に一度、結城や理沙子の喜びそうな料理を考えて準備すること。
そしてそれを美味しそうに食べる二人……特に結城の笑顔を見ることが、優雨の誰にも言えない秘かな喜びだった。

「亡くなった父がね……母の作る料理が本当に好きで、小さな頃から外食なんて全くしなかったぐらいなの。子供の頃はそれが少し不満だったけれど……」

仲の良かった父と母。
二人はある日突然事故で死んでしまった……。

「今では素敵なことだなと思って。ただ、もっと一緒にデートっていうか……外で父と食事とかしてみたかったなと思ってしまうの。母とは出掛けたこともあったんだけれど……」

そんな優雨の話を、理沙子は真剣な表情で聞いてくれる。
事故の直後は辛すぎて、両親のことはあまり考えられなかったけれど……今ではこうやって少しづつ思い返すことも出来る。
ただ、気付いたら優雨の周りにはそんな話のできる友達がいなくなっていた。
良介に交流を禁じられたこともあり、結婚を機に昔の友人達はどんどん離れて行ってしまったのだ。

改めて、理沙子や結城の存在を有難いと思う。

「うちの父なんて、家で食事をする姿なんて殆ど見たことないわ。まあ、母も私と一緒でおいしい家庭料理なんて作れないけれどね。優雨の料理上手はお母様譲りなのね」

そう言って、理沙子は優しく笑った。
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