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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
因みに、田所家の部屋のキッチンはこの部屋とは全く違う。
大きな工事の要らない簡単なリフォームをしただけだというが、家具類のランクが違うだけでこんなにも雰囲気が変わるものだろうか。キッチンも部屋の中もまるで違うマンションの部屋のように洗練されている。

モノトーンで統一された、和モダンといった感じのまるでモデルルームのような部屋に目をやる優雨に、理沙子が唐突に言った。

「牡蠣なんて食べていると、共食いしている気分になるわ。見た目だけじゃなくて、プルプルしていて……フフ……グロテスクなのになんかエロティック」

「えっ……?!」

理沙子を見ると、オイルで濡れた指先をセクシーに舐めている。
そして、ホットパンツから伸びた長い脚を意味ありげに組み替えるのを見て……何のことか次第に分かって来た優雨の胸は、ドクンと音を立てた。
耳が熱くなるのが分かる。

「……優雨、最近色っぽくなったんじゃない? 良介さんに内緒でセックスする相手でもできちゃった?」

「えっ?! まさか……」

咄嗟にリビングを見るが、良介の薄くなった頭にはヘッドホンがのっていて、こちらの会話が聞こえている様子はない。

良介は愛情も身体の繋がりももう無いのに、優雨が官能的な話題に触れるのを極端に嫌うのだ。それが例えメロドラマのような類の軽いものであっても……。

「大丈夫、大丈夫。二人とも旦那のDVD観てるんじゃない? ていうか優雨、やっぱり気を遣いすぎよ」

優雨がつい良介の顔色を見てしまうということを理沙子から指摘されたことはあったが……機嫌が悪くなった良介が、どんなに嫌な言葉で優雨を罵るかを打ち明けることなど出来なかった。
それを知ったら理沙子はどう思うだろうか?

「う、うん……」

「だって、旦那とずっとヤッてないんでしょう? だったら彼氏ぐらい作ってもいいじゃない」
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