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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
理沙子には、性の話題などをあけすけに話すところがある。
優雨は以前、セックスレスの話題を理沙子に振られ、冷え切った夫婦関係についてうっかり打ち明けてしまったことを後悔した。

優雨と良介が身体を重ねなくなってからはもう何年もの時間が過ぎていた……。

「でも、彼氏だなんて……結婚しているんだし。理沙子さんだって……その、結城さんには……あのこと内緒なんでしょう?」

結城夫妻もセックスレスだというが、理沙子にはかなり年下の恋人がいると聞いていた。

〝浮気〟〝不倫〟……。

恋人の話を初めて耳にした時には驚き、正直少し不快な気持ちにもなった。
しかし、たとえ肉体関係が無くても夫婦仲はとても良さそうだし、その上でさらに愛し、愛される人もいる……。
それは、よく考えればうらやましいことだけれど、優雨には到底無理な話だと思った。

「ああ。敢えて紹介したりはしてないけど、誰かいることぐらいは気付いてるわよ。だって夫婦だもん」

気付いている……それなのに夫婦関係は続けていけるものなのだろうか?
その事実と、〝だって夫婦だもん〟という言葉の間には、優雨には理解できない何かがあるように感じた。

「それに、二十代や三十代で何年もセックスなしで我慢できる訳がないじゃない。ウフフ……お互い様ってやつよ」

お互い様ということは……結城にも恋人がいるのだろうか。
そして理沙子もそれを知っている……。
ますます理解が出来ない。

「え……結城さんも不倫……お付き合いされている人がいるっていうこと……? あんなに仕事熱心で真面目そうな方なのに……」

毎日仕事で帰りが遅いと言っていたのに……優雨はショックが隠しきれなかった。
結城が理沙子のものであることは分かっているし、自分が結城とどうにかなりたいなどとは考えていなかったが……結城が他の女性に触れることを想像するだけで胸が痛くなるような気がした。
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