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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
自分はどこかおかしいのだろうか……。

「優雨、旦那に興味あるの? 話したら喜ぶわよ、きっと。今はフリーみたいだから。それはそうと私も最近別れちゃったんだよね……」

フリーということは……別れた? 恋人と?

もう少し話が聞きたいと思ったその時、結城がキッチンに顔を覗かせた。

「そろそろディナーにしようか。皿を運ぶよ」

テーブルセッティングの手伝いなども、良介は決してしないことだ。
さり気なく女性を気遣う結城のスマートさには日頃から感心している優雨だが、今は、結城の女性関係の話に夢中になって、彼が近付いてくるのに気付きもしなかった自分をはしたなく思って居心地が悪かった。

「優雨さん、いつも家内のおしゃべりに付き合わせてしまってすみませんね。困らせていませんか?」

「い、いえ……あの……」

結城を意識し上手く話せない優雨を見て、理沙子がからかうような表情を見せる。
そしてそんな二人に気付かない様子の結城は、カウンターの上の一皿を見て嬉しそうに微笑んだ。

「ああ、牡蠣のコンフィ。これは美味そうですね……いただくのが楽しみだ」

そう言って喉を鳴らす。
理沙子が変なことを言うものだから、結城のその口もとが妙に艶めかしく感じられる。
そして、いつもより一つ多くボタンの開いた白いシャツの、鍛えられた胸元が気になって……。

優雨はぶるぶると頭を振って雑念を追い出し、精一杯自然に見えるように笑顔を返し、他の皿を手に取った。

結城には最近まで恋人がいた……。
それは若い人なのだろうか?
結城が選ぶ人なのだから、きっと美しい人ではあるだろう。

皿を運びながらもついつい考え込んでしまう。
胸に渦巻く嫉妬のような……もやもやとした感情に気付いた優雨は戸惑っていた。

そんな優雨の様子を結城が注意深く見ていることも、理沙子との会話を少し前から聞いていたことも……その時の優雨は気が付いていなかった。



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