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それを、口にすれば
第15章 穢れた時間
驚きと恐怖で声も出ない優雨だったが、戸惑っている間にも両手はゆっくり上に上がって行き、座っていられなくなった優雨は立ち上がらざるをえなくなった。

おかしな体勢で立ち上がり、スカートがめくれ上がっていないか咄嗟に手を伸ばしたくなるが、思い通りに動かすことが出来ない。

悪い夢でも見ているのだろうか……
両手は更に上がり、ついには万歳をするような恰好になる。

そしてそのままジリジリと吊り上げられ、つま先立ちになってしまいそうなところで滑車の動きは止まった。

「あ、あの……」

声を絞り出すと、それに呼応して大きな拍手喝采が起こる。
先ほどより少し慣れて来た優雨の目には、ライトの向こうに座る数十人の人間の影がかなりはっきりと見えて来た。
男性ばかり……いや、前列の方に少しだけ女性もいる……あの人たちは一体、誰なのだろう。

その時どこかから男性の声が聞こえて来た。
それは聞きなれた声のようだったが、混乱する優雨はそれが誰のものであるか分からなかった。

『皆様、お待たせ致しました……本日の奴隷、田所優雨 二十八歳……お嬢様学校として有名なあの清女短大卒、男を知らないまま二十一歳で嫁いだ……人妻です』

割れんばかりの拍手が巻き起こる。

大勢の人たちの前で明かされる自分の本名や学歴。
そして男を知らないまま、なんて……それらは全て本当のことだけれど、どうしてそんなことを言われなければいけないのだろうか。
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