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それを、口にすれば
第15章 穢れた時間
「デカいなあ……何カップだ!」

「F! いや……Gか……」

口々に勝手なことを言っている。
その声にも聞き覚えがあるような気がして客席に目を凝らしてみると……
仮面を着けた観客に交じって、そこには優雨の良く知った顔が並んでいた。

名前の知らない常連のおじいちゃん……サラリーマンの砂川さんに、商店街の印刷屋さんご夫婦……近くの寮に住む大学生もいる。
それは、優雨がいつも接客してきた店の常連客達だった。

「いやっ……見ないで……」

「見られるのが好きなんだろう……?」

と、そこまで言ったところで、店長は優雨だけに聞こえるように囁いた。

「理沙子から聞いたよ。ほら、今日もあそこで見てくれている」

(理沙子さんがここに……?)

まさかと思ったが……観客席の隅々にまで目をやると、端の、ひと際暗くなっている一角に仮面を着けた理沙子が座っていた。

仮面のせいでその表情はあまり分からないが、口もとには冷ややかな笑みを浮かべている様にも見える。

こんな場面をただ黙って見ているなんて……まさか、理沙子も店長と共謀しているとでもいうのだろうか。

とても信じられない……。

(どうしてなの、理沙子さん……)
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