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それを、口にすれば
第15章 穢れた時間
しかし、優雨にはそのようなことを考えている余裕はない。

唇……いや顔中を舐めまわされ、好きでもない男性に穢されてしまった。
なのに、この恰好ではそれを拭うことすら叶わない。

「うっ……う……」

嗚咽を漏らす優雨に、同情する者はここにはいなかった。
理沙子は相変わらず冷ややかな視線を送り、そしてそれ以外の者は皆、興奮を深める一方なのだ。

その空間に、ガラガラ……と音を立てながら主任が台車を押して戻って来た。
台車のうえには何かが乗っていて、その上には大きな布が掛けられている。

〝アレ〟とは何だろう……。

危害を加えられるような、何か酷い物が出てくるとしたら……と不安でいっぱいになる優雨を見て主任はニヤリと笑い、観客席に向けて声を張り上げた。

『皆様、ご覧ください……妻の身を案じた夫が駆けつけました!』

バサッという音を立てて布が剥がされると、そこには優雨と同じく着衣のままの良介が身体を折り、まるで俵か何かのように縄でぐるぐる巻きにされて転がっていた。

「ん――ん――!」

良介は何かを叫んでいるが、ベルトのついた丸い球のようなものを咥えているせいで何を言っているのかは分からない。
ただ、必死の形相で……半分下着姿となった優雨を凝視していた。

『いやあ、美しい夫婦愛ですねえ。しかし、妻がこのようなことになる原因を作ったのは自分自身だ……情けないこの男にも妻の痴態を見届けてもらいましょうか!』
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