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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
「今週もお疲れ様でした~」

理沙子の掛け声で、四人がワイングラスを掲げる。

大きなガラステーブルの上には数皿の料理と繊細な模様の彫り込まれたピューター製のワインクーラーが並んでいた。

今日の主役は、結城が仕事で仕入れたという白ワインだ。

結城が慣れた手つきでワインを注ぐと、何を思ったのか良介が真っ先に口をつけてグチュグチュと口を鳴らす。
酒の弱い優雨はワインの作法に詳しい訳ではなかったが、そんな優雨から見ても良介のその仕草はとても下品で、見ているだけで恥ずかしくなった。

似ても似つかなかったが、数日前にテレビで見たばかりのソムリエの真似をしているのかもしれない……。
良介は何事においても見栄っ張りで、テレビやネットで仕入れたにわか仕込みの知識をひけらかすようなところがあった。

先日も、乾杯の際に大きな音を立ててグラスをぶつける良介の癖が、結城のお陰でやっと治ったばかりなのに……また新たな悩みの種が出来てしまった。

優雨が今注意しても、良介はきっとムキになるだけだ。
あの時のように、角が立たないよう、結城が上手く言ってくれたらいいのにと祈るような気持ちで考えた。

「これは、なかなか……」

と、小さな目を見開き、ぎょろりと回しながら大げさに良介はうなる。

優雨も遅れて口をつけてみると、それはとても爽やかな口当たりで、若いワインなのではないのかと何となく思った。
飲みやすくて素晴らしく美味しいと優雨は感じたが、良介が毎週楽しみにしているような高級ワインとはどこかが違う様な気がする。
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