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それを、口にすれば
第15章 穢れた時間
良介の方に目をやると、相変わらずこちらのことを必死の形相で見ていて、その様子はとても苦しそうだ。

「だって、夫はあんなに……」

夫を信じたかった。

「まあ、いい……。佐藤君、犬の縄を解いてやれ。あいつは頭が悪そうだから、もう一度念を押して」

店長の命を受け主任が良介のもとに行き、跪いて耳元で何やら言い聞かせている。
そして、身体を拘束している縄を解き、ボールのようなものも口から外した。

拘束が解かれた良介は、身体が痺れているのだろう……すぐには立ち上がることが出来ない。それでも何とか這いつくばり、口からよだれを垂らした情けない姿で優雨に近付いて来る。

そして、その気になれば優雨に触れることの出来る位置まで来たが……そうすることなく、良介は主任に言われるままにその場に正座をした。

店長が、手にしたままだったハサミで優雨の腹をスーッとなぞると、直接肌に触れる刃先に鳥肌が立つ……

「いやああ……あなた、たすけて……」

涙に濡れた目で見つめても、良介は何も言わず優雨を凝視するだけだ。

「あなた……」

良介の考えていることは分からなかったが、助け出すという選択肢はないようだった。話すことも許されていないらしい。
知っていることなら何でも、その口で話して欲しいのに。

主任に一体、何を言われたのだろう……?
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