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それを、口にすれば
第16章 愛しい名前
理沙子がまず向かったのは、熊のように大きな身体を丸くして小刻みに震えている店長のところだ。

「うわあ、熊ちゃん……よく見ると酷い怪我ねえ」

「ぐぐ……ぐ……」

店長の口もとは血まみれだ。
かなりの重傷なのか、これでは主任が止めに入らなかったとしても優雨のところまで辿り着くことは出来なかったかもしれない。

「っていうかあの優雨が、まさかねえ……夫婦揃ってとんでもないクズ奴隷だわ」

理沙子の表情には、店長の怪我の心配よりも、自分が思い描いた通りにならなかった事柄への落胆と苛立ちが滲んでいた。

途中までは良かった。
しかし、良介は言いつけに逆らい、そして優雨も……。

本当は、性奴隷と化して廃人同様になった優雨の姿を夫に見せたかったのに。

「いじゃ……いじゃ……」

店長がやっと声を上げる。
理沙子は、はあ……と大きなため息をついた。

「医者……? 仕方ないわねえ。なら、根岸さんのところに連絡しておいてあげるわ。裏口から……佐藤さん分かるわよね?」

「はい。店長……立てますか?」

店長は目をつぶり、もはや浅く息をしているだけだ。
言葉を発するのも、頭を振るのも辛いのだろう。
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