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それを、口にすれば
第16章 愛しい名前
「優雨ちゃんの方は……ああ、意識が戻ったようですね。大丈夫かな。彼女はしばらく様子を見るか……」

この歴史あるレストランで行われたいかがわしいショーによって重傷人が出たなど……万が一警察に知られでもしたらかなわない。
主任はまず、店長だけを理沙子の知る闇医者に連れて行くことにした。

店長は巨漢だ。
主任は、良介が乗っている台車に乗せ、業務用のエレベーターで店長を運ぼうと考えた様だ。

「おい、どけよ」

「うぐう……」

まるでゴミを扱うように良介を台車から蹴落とすと、そこに理沙子が声を掛けた。

「ねえ、佐藤さん。手が汚れるからその縄は解いて行ってくれない? 後は何とかしておいてあげるから」

「……承知しました」

主任は渋々と言った様子で縄を切ると、店長の身体を押して何とか台車に乗せる。
そして店長には布を掛け、自らはベンチコートを羽織った。
あとは店のトラックまでこれを押して行けばいいだけだ。

しかし、ガラガラと重い音を立てながら進み始める台車はすぐにストップした。

良介が這うようにしながら台車に飛びついたのだ。

「金……金は……なあ、金は!」

うんざりした様子の主任が声を荒げる。

「おい、汚ねえなあ……触るなよ!」

「やることやったんだから早く……」

身体を張ったのは優雨だが、その対価を良介に支払うという契約だったのだ。
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