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それを、口にすれば
第16章 愛しい名前
主任はポケットから金の束を出し、床に投げつける。

そこら中に散らばった金を全裸でかき集める良介を見て、その醜い姿に主任は嫌気がさす思いだったが……自分たちも同じ穴のむじななのだ。

しかし彼もまた、そんな風に自戒出来る人間ではなかった。

「はは……どうしようもないな。奥さんのことが気にもならないのか? 頭が痛んでいるかもしれないぞ」

「俺の頭じゃ無えっ」

四つん這いになったまま、大量の金を手にした良介は興奮状態だ。

と、その時……
理沙子は優雨の異変に気が付いた。

いつの間にか優雨は目を開き、コンクリートの天井を見つめていたのだ。

「優雨……」

思わず声を発した理沙子を優雨はしっかりと見つめ返す。
涙をいっぱいに湛えたその目には、静かだが激しい怒りが宿っていた。

「な、何よその目……気持ちいい思いしてお金も返せるんだから良かったじゃないの!」

優雨はゆっくりと身体を起こす。
両腕で胸もとを隠してはいるが、何も身に着けていない白肌は所々が赤く擦りむけたようになっていて、とても痛々しかった。
しかしその目つきはやはりとても厳しい……。

「り、良介を見なさいよ……みっともないわよねえ! でも貴方たち夫婦にはこれがお似合いよ。私たちとは初めから違うのよ。うらやましかったら……」

「みっともないのはどっちなの……」

「……え?」

「人の心を、人生を弄んで……それで勝ったようなつもりでいるの? 理沙子さん……貴女おかしいわ……うらやましいなんて私は絶対に思わない!」

優雨は生まれて初めて心からの怒りを感じ……そしてそれを口にしていた。
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