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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
結城は話題が豊富なだけでなく、巧みなトークで人を気持ちよくさせるのが上手かったし、理沙子は社交的で、ストレートな言い方をしても不思議と人を嫌な気持ちにさせないタイプだった。
そんな二人とだからこそ、素敵な時間が過ごせるのだ。

今のように、それぞれのパートナーを交換して話に耽るのもこの会の楽しみだった。
理沙子が良介と話していて楽しいのかは分からなかったが……少なくとも優雨にとってはかけがえのない時間だった。

良介が値段当てクイズに夢中になっているのを見て、優雨は話を続ける。
ほんのひと時でも、結城と二人だけの会話を楽しめるのが嬉しかった。

「私は……先週いただいたようなワインより、こちらの方が美味しく感じます。高級そうな感じはしたんですが、すみません……正直に言うと飲みづらくて……でもこのワインはとっても美味しいです」

そう言ってグラスを空けた優雨を見て、うんうんと結城が頷く。
そしてまた結城の手によって、甘い香りのする液体が優雨のグラスを満たした。

「良かった……優雨さんをイメージして買い付けて来たワインですからね。狙いが当たって嬉しいです」

「私を……?」

越して来た直後に結城が短いイタリア出張に出ていたのを思い出す。
あの頃はまだ二回ぐらいしか顔を合わせていなかった筈なのに……。

新しい店のために、妻ではない身近な若い女性の意見を聞きたかったというだけかもしれない。
深い意味はなどある訳がないのに……頬が熱くて仕方がない。

いちいち反応してしまう自分が恥ずかしくて優雨が俯いたその時、結城の顔が近付き、小さな声で囁いた。

「そう、イタリア産でボトル二千五百円のワインです。ボルドーじゃない……優雨さんの勝ちですね」
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