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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
十も年上ですでに頭も薄くなっていた良介は、お世辞にも女性にモテるような容姿ではない。
しかしその頃の優雨はそこに誠実さを感じたし、大人の落ち着いた男性だとも思った。
また、今ではただ虚勢を張っているのだと思える態度も、本当に頼もしく見えたものだ。

デートをすれば金払いも良く、そんな点を大人の魅力だと感じるほど優雨は幼く、また経験が浅かった。

優雨にとって良介は初めて交際した男性だったのだ。

しかし、結婚後には良介の様々な嘘が露見する。
その殆どは、学歴を大きく偽ったり、女性の経験人数を多く言ったり……自分を大きく見せたいという見栄からのくだらないものだった。

それだけならかわいいものだが、優雨が一番ショックだったのは、異動の原因になったという不祥事が、経費の使い込みという最悪のものだったことを良介がずっと隠していたことだ。

なぜあの時あんな風に簡単に結婚を決めてしまったのだろう……と、今でも思うことがある。
考えても仕方がないと分かっていても、そんな風に考えてしまうほど現在の夫婦仲は上手くいっていなかった。

そして良介は〝釣った魚にエサはやらない〟というタイプの男の典型だった。
極度の見栄っ張りのため、交際中は大した給料もないのに優雨に金を使っていたのだ。決して特別な贅沢をさせてもらった訳では無いと思うのだが、使い込みの一因が自分にもあるかもしれないと感じ、優雨は心を痛めた。

良介のその性格は結婚生活の様々な部分に影を落とす。
二人が住み始めたこのマンションのローンは良介の給料では毎月のやりくりが大変だったが、それでも良介は殆ど乗らない乗用車を所有し、妻をパートに出すなどみっともないと言って優雨を部屋に閉じ込めた。

そんな生活でも、夫婦仲が上手くいっていれば優雨は満足できる筈だった。
優雨なりに良介への愛情を感じてもいたが……何とかやっていた夫婦関係も、もう破綻寸前だった。

この間などは、優雨と結婚したのはただ若かったからだと言われて……。
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