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それを、口にすれば
第3章 淫らな食べもの
四人がここに集うようになってから、こんなおかしな空気になってしまうのは初めてだった。

(どうしよう……どうしたらいいの)

新たな涙が零れそうになった優雨が、汚れた指先を見つめたまま下を向くと……
突然、その指を結城が自らの口もとに持っていき、ペロリと舐めた。

「あっ……」

唐突に触れられて、戸惑う優雨の瞳を結城が覗き込む。
その行為自体は行儀の悪いものであったが、優雨にはとても官能的だと思えた。

(結城さんが私に触れた……)

それはあの、誕生日の日に玄関で口もとに触れられて以来だった。

「ああ、これもマナー違反か……失礼」

笑いを含んだ結城の声に、良介は情けないほどにホッとした表情をし、優雨も大きく安堵のため息をつく。
場は嘘のように穏やかな空気になった。

「それより良介さん」

「は、はい?」

「知ってますか? 牡蠣は昔からみだらな気持ちを呼び起こす食材だと信じられてきました。それに、フォルムも実に女性的で……この舌ざわり、堪りませんね」

そう結城が言ったことで、今度は何か別のものが四人の間に流れたのを優雨は感じた。

結城まで何を言い出すのだろう……?

「か、官能的かぁ……じゃ、じゃあ牡蠣も悪くないかな……」

良介が急にソワソワし始める。

そして結城は、牡蠣をスプーンで一粒すくい、優雨の口の前に差し出した。
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