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それを、口にすれば
第5章 封じられた夢、封じられた心
「優雨は我慢強いね……いや、傲慢ともいえる。そんなに蜜を溢れさせているのに、なかなか素直になれないね」

ああ、やっぱり……と優雨は思う。
今夜も焦らされるのだ。

初めての夜、結城は優雨を抱かなかった。
その舌で優雨の身体を何度も痙攣させ、

『私の奴隷になりたくなったらそう言いなさい』

と言って最後には余裕の笑顔を見せた。

しかし優雨はどうしても自分から求めることは出来なかった。

〝それ以上〟を求めて来ない結城に劣等感のようなものを感じたし、それに結城という男性の想像もしなかった面に触れて混乱してしまったのだ。

パソコン画面の中には、良介と理沙子の二度目の挿入シーンも写しだされている。
良介は見たことが無いほど興奮し、理沙子も自分もはしたない声を上げて……。

なのに、結城だけはいつもの表情だった。

結城は、例えば優雨が自ら結城のペニスを咥え、そして淫らに挿入を求めるようになるまでは自分からは無理強いをしない……そういう考えの持ち主のようだった。

何度親密な時間を過ごしても、結城の心が揺らぐことは無い。
興奮の気配さえ見せてくれることは無かった。
優雨はの方は戸惑いつつも身体が疼き、正直抱かれたいと思ってしまっているというのに。

けれど、それを口にすることはできなかった。
人妻であるという強い貞操観念優雨を縛り付けているのだ。

例えば、良介にいくら酷いことを言われたとしても、別れようと思ったことはなかった。
夫婦とは死が二人を分かつその瞬間まで添い遂げるものだと……優雨はそう思っていた。
亡くなった父と母がそうだったように。
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