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それを、口にすれば
第6章 気持ちが、あるから
優雨は、二週間ほど前から自宅からほど近い洋食レストランでアルバイトをしている。
どういう繋がりかは分からないが、理沙子が店長を紹介してくれたのだ。

以前から優雨が外に出ることには反対の良介だったが、優雨の気持ちを酌んでくれた結城の、言葉巧みな説得のお陰で週に三日、平日のランチタイムだけという条件で許された。

そして、今朝も十時の出勤時間に合わせて家を出たとき……ちょうど外出先から戻って来た理沙子と玄関の前で出くわした。

明け方まで良介と過ごしていた筈の理沙子だが、その後一人でどこかに出かけていたのだろうか……。
そう不思議に思った優雨だったが、それよりも二人きりで顔を合わせるのは久しぶりで、後ろめたいような感情ですぐに心は埋め尽くされていた。

「優雨、おはよ!」

一方の理沙子からは、気まずそうな様子など全く感じられない。

「おはよう……今からアルバイトなの。理沙子さんはどこかに行っていたの?」

出勤前でゆっくり話をする時間が無いという言い訳をするつもりも、朝から派手な化粧で帰宅する理沙子がどこに行っていたのかと問い詰めるつもりも……そのどちらもないというのに、なぜか不自然に宙に浮いてしまう言葉。

それは優雨の気のし過ぎなのかもしれなかったが、とにかく早くここから立ち去りたいのは間違いなかった。

アノ話になる前に……。
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