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それを、口にすれば
第6章 気持ちが、あるから
「そこでバイトに行く優雨に会ったわ。なあんか暗い顔してたけど」

今まさに心に浮かんでいた優雨という名が突然妻の口から飛び出したことに結城は驚いたが、涼しい顔でやり過ごす。

それにしても、暗いとは……。

アルバイトは楽しいと言っていたのを昨夜聞いたばかりだから、また良介に何か言われたののだろうか。
良介が優雨にたまにする、女性蔑視ともとれる発言を結城は日頃から不快に思っていた。

「……アルバイト、頑張っているみたいだな」

「そうねえ……店長も優雨のことすごい気に入ったって言ってたわ。だからきっと待遇でも良くて居心地いいんじゃない?」

店のことは少しは知っていたが、理沙子の知人である店長がどういう人間なのかは知らない。
レシトランとしての店の評判も良いし、理沙子の知人の店ということで、社会経験の少ない優雨も安心して働けるだろうと良介の説得にも一役買って出たが……どのくらいの年代の男性なのだろうか。

その人物のことが初めて気に掛かることに、またもや〝らしくない〟自分が顔を見せたような気がして結城は苦笑した。

〝嫉妬〟などというものではないと断言はできるが……優雨に関わることとなると、自分の調子はいささか狂うようだ。

「そうか。ところでこんな時間に帰って来て、良介さんはどうしたんだ」

「ああ、昨夜は早い時間に解散したのよ。フフ……ちょっと魅力的なお誘いがあってね。良介には貴方達の邪魔は絶対しないようにって言っておいたから、ここで一人でいびきでもかいて寝てたんじゃない?」

あの良介のことだ。
理沙子の言うことはおとなしく聞いておいて、今朝になって優雨に当たり散らしたに違いない。
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