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それを、口にすれば
第6章 気持ちが、あるから
昨夜、母親になりたいという気持ちを話してくれた優雨。
確かに、優雨なら良い母親になれそうだ。

しかし、良介のような男との間に子供を授かったところで優雨は幸せになれるのだろうか……という疑問も湧く。
ただ、こればかりは夫婦の問題だ。自分の出る幕はない……。

それに、優雨が子供が欲しいという気持ちは、もう本能的なものなのかもしれない。
そんな感情は自分や理沙子の中には皆無で、優雨の話に耳を傾けてやることはできても深く理解してやることは出来なかった。

いや、皆無か……。
自分にも若い頃、一度だけ結婚を考えた相手がいた。そう言えば彼女とはごく一般的な幸せを夢見たこともあった。突然別れを切り出され、恋愛というものに嫌気がさしてしまったのだが……それはあくまでも過去の話だ。

とにかく、理沙子との結婚生活の中では子供を望んだことは一度も無い。
しかし理沙子は本当にそうだったのだろうか?
子を授かりたいという気持ちが女性の本能ならば……理沙子も?

「……子供ってそんなに欲しいものなのか」

本気で訊ねようとしていた訳ではなかったのに、自然とそう口に出していた。
しかし、そんな結城を見て理沙子は大きな笑い声をあげた。

「やだあ……いまさら何言ってるの? 笑える」

「いや、優雨……さんから……子供を欲しかったという話を聞いたから何となく……な」

優雨の名前を聞いて、理沙子は〝やっぱり……〟とでも言うように笑った。

「ああ、優雨ね……あれは異常よ。不妊に悩んで、胃潰瘍になったりもしたらしいわよ。子供ごときに笑っちゃう」

いつもならさして気にならない筈の、理沙子のストレートな物言い……。
その中に侮蔑が含まれているのを察して、結城は不愉快な気持ちになった。
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