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それを、口にすれば
第2章 一年に一度の言葉
「おいおい、お前は……」

男性がそうたしなめる。
すると、まだ何かを言いたそうな理沙子だったが、舌をペロッと出してその手を引っ込めた。

「結城寛之と申します。こちらは妻の理沙子です。よろしくお願いします」

穏やかで低く響く……女性なら誰もが魅力的に感じるであろうその声で結城が話を続けるが、理沙子のオーラのようなものに圧倒された優雨は、彼女の顔を見たまま言葉を返していた。

「……田所優雨です。すみません、夫の良介は今仕事に行っていて……」

そんな優雨の顔を、理沙子は黙ったまま、なぜか面白そうに覗き込む。

結城は、言葉を続けた。

「いやあ、平日の昼間ですからね。ご主人にはまた改めてご挨拶に伺います。今晩また……と言いたい所ですが、あいにく今日はこれから海外出張で……」

海外出張……旦那様はどんなお仕事をされているのかしら。

そう思ったところで、結城に対して失礼とも言える態度を取っていたことに気付き、優雨は慌てて彼に目を向けた。

結城寛之は、理沙子に負けず劣らずの美男だった。
落ち着いた雰囲気は彼がもう三十代であるだろうと思わせるが、ゆるくウェーブのかかった前髪から覗く、少し茶色がかった瞳は柔らかくて……まるで少年のように美しく見える。

健康的な肌の色、均整の取れた鼻と唇。
どこを取ってみても、優雨が今までに見たことがある男性の中で一番恰好が良いと言えた。
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