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それを、口にすれば
第8章 空を駆ける言葉
夫の子供……それを心の底から喜べない自分が酷い人間だと感じる。

まだいるのかも分からないお腹の子に向かって優雨はごめんね……と呟いた。

母になりたい気持ちに変わりはない。
でも、自分の心の中は結城への想いで埋め尽くされてしまっているし、それに良介もまさに今から理沙子を抱きに行こうとしている……。

そんな中で、夫の子供を身籠ることを手放しで喜べないのは当然だった。

それに、結城はどういうつもりだったのだろう……と、また様々な考えが浮かんでくる。
あの日が危険な時期かもしれなかったことは恐らく気付いていた筈だ。

良介の方は……もともとそういうことには無関心だったし、もし関心があったとしてもあの数日前に生理中だと偽っていた為、全くその心配をしていないと思う。

もし今話したら、どんな顔をするのだろう……?

優雨はふと、そう思った。
この状況で良介がどんな態度を取るのか見当もつかないし、自分がどんな態度を取ってほしいのかも今の優雨には分からなかったが。

玄関に向かう良介に声を掛ける。

「理沙子さんに会うの?」

「だったらなんだよ」

「私、生理が遅れているの……少しだけだけど」

「……そんなこと言って、できてた試しがねえだろう。お前には無理なんだよ。いい加減もう諦めろ」

「…………」

――夫の子供を望むことが自分の幸せ――

長年優雨を支えていたその想いは、粉々に崩れ去ろうとしていた。
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