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それを、口にすれば
第8章 空を駆ける言葉
『はい、ありがとうございます』

そう送ってから、思ってもいない言葉だな……と咄嗟に思い、そして優雨は愕然とした。

〝思ってもいない〟

もし本当に子供を授かっているとしたら、その子に対してなんてひどいことを言う母親なのだろう。
また、思わずお腹に手を当てた。

『客と食事に行くからそろそろ失礼するよ。実は今から出掛けるところなんだ』

そうだ……結城は出張中なのだ。
心配を掛けるようなことを言って、自分は一体何をしているのだろう。

『ごめんなさい』

『いや、溜めないでなんでも言うといい。しかし明日にはこちらを立つから……しばらく返信は出来ないよ。また週末に話をしよう』

返信が遅れても優雨が心配しないように……という結城の細やかな心遣いが胸にしみた。

『おやすみ』

『気をつけて帰って来てくださいね。おやすみなさい』

(結城さんが好き……)

まだ分からないことは多いし、確かに酷いことをされたけれど……心が結城を求めてしまうのは止められない。

それどころか、たとえ酷い人だっていい……もしも全ての足枷がはずれて、結城の子供が授かれたらどんなに幸せだろう……と、そんなことをつい思ってしまう自分に気付き、優雨は再び自分を責めた。

もしかしたら今、ここには夫の子が宿っているかもしれないのに……。

愛している人の子ではないけれど、ずっとずっと欲しかった子供。
でも、それを無理やり作らせたのは愛するあの人で……。

(一体どうしたらいいの……)

優雨は途方に暮れていた。





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