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それを、口にすれば
第9章 けれど、愛してる
「あの日……初めて会った日、誕生日だって優雨は言っていただろう」
そう。独りでケーキを焼き、結城との初対面はそのケーキを口につけたままで……。
その情景を思い出して優雨は頬を赤く染めた。
「あの時、部屋の奥からシナモンの香りがしていた。ドアが開いた瞬間にクッキーかケーキでも焼いたばかりなのだなと思ったよ。その後、ケーキだったとすぐに分かった訳だけれど」
結城が、口もとに付いていたケーキの欠片を口にしてしまったことを思い出すと、思わず笑みがこぼれる。
目の前で同じく微笑を浮かべる結城を見て、優雨はその優しさに涙が出そうになった。
今思えば、あの時からもう結城に心奪われていたのかもしれない……。
結城は余計なことは話さないし、普段はとてもクールなのに……なんて優しいのだろう。
何も言わなくても、自分のことをきちんと見てくれている気がする。
なのに良介は……。
あの日の夕食後、久しぶりにシナモンケーキを出してみたけれど、良介は嫌そうな顔をして口に運んだだけで、その日が妻の誕生日であることには気付かなかった。
優雨にとって母との想い出のつまった大切なケーキを、ただ流れ作業のように口へ放り込んだだけだ。
「私……私……」
この間良介に抱かれた夜から出張中のことまで……会ったら色々な話をしたかったのに。
胸が詰まって、何から話せばいいのか分からない。
ただ一つ言えることは、妊娠しなかったことはやはりショックだけれど、良介の子供が欲しかった訳では決してないということだった。
結城のワインを飲む手が止まった。
そう。独りでケーキを焼き、結城との初対面はそのケーキを口につけたままで……。
その情景を思い出して優雨は頬を赤く染めた。
「あの時、部屋の奥からシナモンの香りがしていた。ドアが開いた瞬間にクッキーかケーキでも焼いたばかりなのだなと思ったよ。その後、ケーキだったとすぐに分かった訳だけれど」
結城が、口もとに付いていたケーキの欠片を口にしてしまったことを思い出すと、思わず笑みがこぼれる。
目の前で同じく微笑を浮かべる結城を見て、優雨はその優しさに涙が出そうになった。
今思えば、あの時からもう結城に心奪われていたのかもしれない……。
結城は余計なことは話さないし、普段はとてもクールなのに……なんて優しいのだろう。
何も言わなくても、自分のことをきちんと見てくれている気がする。
なのに良介は……。
あの日の夕食後、久しぶりにシナモンケーキを出してみたけれど、良介は嫌そうな顔をして口に運んだだけで、その日が妻の誕生日であることには気付かなかった。
優雨にとって母との想い出のつまった大切なケーキを、ただ流れ作業のように口へ放り込んだだけだ。
「私……私……」
この間良介に抱かれた夜から出張中のことまで……会ったら色々な話をしたかったのに。
胸が詰まって、何から話せばいいのか分からない。
ただ一つ言えることは、妊娠しなかったことはやはりショックだけれど、良介の子供が欲しかった訳では決してないということだった。
結城のワインを飲む手が止まった。