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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
 そこで単なる哀れみとは違う、形容しがたい感情が伍名の中に湧き起こる。澪は同情や慰めを求めない娘だった。甘えることが苦手だったように思う。甘やかしてやれば恥ずかしそうに笑んでそれを喜んだが、それだけでもなかった。あの寂びた書のように、密やかに誇り高い子でもあった。その内側に息づくものが、なぜだか浮いた骨から感じられるような気がした。
 だから伍名は必要以上に言葉を使わず、いたわりの気持ちだけを手に託し、いつもと同じように笑んで待つ。その間、赤子が目と口をまん丸に見開いて、不思議そうに伍名を見上げていた。
 「……取り乱して……申し訳ありません」
呼吸が落ち着いてきた頃、澪が小さな声で謝す。
「いや。私はお前が、心を開いてくれることが何より嬉しい。たとえそれが不器用な形であったとしても、いっそういじらしく、愛おしく感じられるんだ。前にも言ったろう? 忘れられてしまったかな」
「いいえ……忘れられるわけが、ありません」
「それでいい。……飲めるかい。ゆっくりとね」
手つかずのまま放置され、ぬるくなっていた澪の分の湯飲みを口元に近付ければ、澪はそこで初めて表情を緩めた。ふ、と吐息混じりの笑みがこぼれ、しかしそれも薄茶を飲み込むのと同時に消えてしまう。それでも伍名は、嬉しかった。
 湯飲みを畳の上の皿に戻せば、赤子と目が合う。
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