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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
 伍名が小首を傾けてみせれば、赤子は一瞬はっとしたような顔をして、それから母に向き直り何事かを訴えた。やはり澪は何も答えなかったが、未発達な喉が発する音が自分でも楽しいのか、赤子は何度も何度も声を上げる。赤ん坊特有の丸みのある腕を振り回して、何を伝えようとしているのか、それを想像するだけでも伍名の心は満たされていく。
「……色が」
「?」
「あなた様のお召し物の色が、珍しかったのかもしれません……」
「……」
その、何の気なしに呟かれた澪の言葉は、伍名が思い描いたものの中には存在しなかった。よく、澪の感性の片鱗を表していると思う。
 珍しく伍名が何も答えなかったので、多少の気まずさを感じたのか更に澪が続ける。
「この子の記憶には、もう春も秋も残ってはいないでしょうから……」
「ああ……それなら後から、反物をいくつか届けさせよう。それに気兼ねするなら、私の古いものを仕立て直すといい。物はいいはずだから、まずは私の代わりにお前の身を温めるものを。それからその残りで、人形でもお手玉でも何か手遊びの道具を作るといい」
「……いいえ……、もう……やめて。やめてください。私はこのままでいい……このままで、いたいのです」
「澪。……」
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